大学院研究室 2024年度の活動報告および来年度への抱負
(1)泌尿器科腫瘍の研究
症例が豊富である当教室の利点を生かして、臨床検体を用いたトランスレーショナルリサーチに重きをおいた研究を行っており、臨床に結びつく研究結果を報告できるよう目指しています。既に1000例を超える多数の臨床検体を保存しており、これらを用いた複数の遺伝子解析研究を行っています。国立がん研究センター研究所免疫創薬部門との共同研究にて腫瘍免疫微小環境の研究を、国立がん研究センタートランスレーショナルインフォマティクス分野(山下理宇ユニット長)との共同研究にて透析腎癌の網羅的遺伝子解析を、カン研究所との共同研究にて腫瘍の免疫細胞の解析を、当院病理診断科及び横浜市立大学分子病理学講座との共同研究にて腫瘍の臨床病理学的特徴についての研究を、昭和大学顕微解剖学(川西邦夫准教授)を主幹とする国内多施設共同研究にて透析腎癌における網羅的糖鎖解析に関する研究等を行っています。また、今年度から星薬科大学エピゲノム創薬研究室(牛島俊和学長・教授、Liu YuYu特任助教)との腎がんイムノゲノミクス解析研究を開始しました。今年度の成果として、当施設で採取した腎がん組織を用いたフローサイトメトリー法による腫瘍浸潤免疫細胞プロファイリングにより、腎細胞がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果およびその免疫微小環境に性差が存在することを見出し、国際誌に発表しました(Ishihara, Fukuda et al., Cancer Immunol Immunother, 2025)。また、透析腎がんの一組織型であるACD-associated RCC組織を用いた網羅的遺伝子解析により、その発がん機序にアミノ酸代謝異常におけるDNAメチル化異常と異常活性化が関与する可能性を明らかにし、国際誌に受理されました(Ishihara et al., Pathology, in press)。このように、いくつかの研究結果が得られ論文として発表することができております。現在も複数の研究が実行されており、その結果を引き続き国内外において発信していきたいと考えております。
(2)腎移植領域の研究
リキッドバイオプシーは、血液などの液体生体試料を用いるため、低侵襲で繰り返し行えることから早期診断や治療効果判定の新たなツールとして注目されています。ドナー由来cell free DNAをバイオマーカーとして測定し、移植腎拒絶反応との関連性を調べる研究を行っています。最先端の多重免疫染色法CODEXでは、1つの腎生検サンプルから約40種類もの細胞マーカーを解析することが出来ます。この方法を用いて移植腎拒絶反応の新たなリスク因子を明らかにし、治療方法を考案する研究を行っています。低侵襲な免疫寛容誘導法の開発(ヒト免疫寛容誘導による腎移植への挑戦)、新規薬剤を用いた腎移植治療・臓器保存に関する研究、細胞シート工学を利用した腎移植治療法の開発、についても引き続き研究を継続します。
(3)その他の研究
人工知能 (AI)の進展により、医療分野におけるデータ解析は飛躍的に向上しています。日々の診療から得られた大量の症例データにAIを活用することで、早期診断や治療につなげる研究を行っています。また、医療器具を開発する研究を開始しました。アポトーシス抑制因子による制御機構はさまざまな分野で注目を集めています。AIM医学研究所との共同研究では、アポトーシス抑制因子と泌尿器科疾患の関連性を調べ、新たな予後予測マーカーや治療法の開発を目指します。
今年度も従来の研究に加えて新たに多数の研究が開始されました。継続研究では一定の成果があり、活発に研究が行われています。現在、5名の大学院生が在籍しており、今年度は2名が卒業予定です。大学院では、他にも書ききれないような多数の研究に携わることが可能です。また、4年間全てを研究に打ち込める事ができるのは他大学では少ない大変恵まれた環境と言えます。当科で行っているほぼ全ての研究に携わることが出来るので、私自身、大学院に入らなければ知らないままだった魅力的な研究や出会いがここにはありました。それらの貴重な体験は、一生の宝になると思います。来年度の目標は、大学院生の獲得、競争的研究資金の獲得、研究室の移転、です。移転については、条件に合う移設先がなかなか見つからない状況にありますが、移転にかかる費用や労力も大きいため、迅速かつ慎重に探していきます。
次年度も、精一杯頑張ります。皆々様の御指導の程、宜しくお願い申し上げます。
石井瑠美
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